帝京大学ラグビー部岩出雅之に学ぶ人生における「負けない作法」

スポーツ

帝京大学ラグビー部。ラグビー大学選手権史上初の9連覇を成し遂げ、日本代表に多くの選手を輩出する今や伝統校7に引けを取らない強豪校として大学ラグビー界に君臨しています。岩出雅之は1996年、当時、決して強豪ではなかったチームの監督に就任し、選手の強化についてトライ&エラーを繰り返しながら長きにわたりノウハウを積み重ねてきました。それが結実し今の帝京大学ラグビー部があるわけです。

岩出のノウハウは一般の学生や社会人でもスポーツでもビジネスの現場でも自分で今すぐ実践できる内容です。なぜなら、岩出のチーム作りは「自分つくり」から始まるから。

今回は岩出の著書「負けない作法」から負けない自分を手に入れる方法を学ぶお話です。

環境と心身を整え習慣化する

帝京大学ラグビー部で9連覇を達成して得た経験から言えること、それは「負けない方法はある」ということ。集中や気合いだけではありません。

負けないためにどうしても身につけなければならないものそれは「作法」と言えます。

作法とは「どんな状況になろうとともかく行う決まり事」です。自分の調子が良かろうが悪かろうが関係ない、必ずしなければならない儀式

まず、自分自身を整える術を身につけることが「負けない」ための絶対条件です。

これが「作法」の超基本になります。

1.環境を整える

帝京大学ラグビー部を訪れた方はグラウンドはもとよりクラブハウスも寮も清潔に保たれていることに驚かれる方が多いです。もちろん、選手達自身が行っていることです。

雑然とした環境では安心してプレーができないからです。安心してプレーができる環境を整えることは重要です。一般の場面ではそれはデスクの整理整頓であり自室の清掃にあたるでしょう。雑然としたオフィスではスムーズなコミュニケーションが取れないし新しいアイディアも生まれません。環境が整っていなければ勝ち負け以前にその土俵にすら立っていないのです。

環境を整えると自分自身もきちんとしていく中で生まれる空気感に清々しい気持ちになります。自然に気持ちも整います。

2.身体のコンディションを整える

環境を整えたあとは身体のコンディションを整えます。

疲れや痛みを感じている時、気持ちを高めるのは難しいものです。ラグビー部では定期的な血液検査など、体の状態を客観的に数字で把握しています。スポーツ選手でなければそこまで必要ないかもしれませんが、体重や体温、睡眠時間や食事内容の記録など体の状態を客観的に掴んでおくことで身体のコンディションに意識が向きます。

客観的条件を掴んでおきその条件に沿って行動できるようになればコンディションが調整しやすくなります。自分なりの調整を身につけましょう。

3.マインドのコンディションを整える

身体が整うとマインド、精神状態も自然と落ち着いてきます。興奮しているわけでもないし落ち込んでいるわけでもない"普通”にマインドがベストです。力まずそのままいられることが肝心。興奮したり落ち込んだりしてもその都度自分にとってのニュートラルな状態に戻すことです。普通の状態が一番いい状態である事を理解しましょう。

4.振り返りをすぐに行う、何度も行う

ラグビー部では試合後私が選手を𠮟ることはありません。勝っても負けても選手達は自ら試合の振り返りを行います。練習後も同様です。次にすべき行動を自ら決めることを徹底しています。一人でできる限り早く、そしてそれを人に伝えられるくらいまで振り返りを行うこと。それをもとに明日すべきことを書き出す。その積み重ねが「負けない自分」の礎になります。

5.丁寧に日常生活を送る

環境・身体・マインドが整うと日常生活を丁寧に送るようになります。ごみが落ちていたら拾う、人に会えば「こんにちは」と挨拶する、なにかしてもらったら「ありがとうございます」と感謝する。日常の小さなことを大切にしていれば自分の周囲には小さな応援団が出来上がります。「負けない」ためには応援団がいることも大切です。

6.行動の習慣化を図る

ここまで当たり前のことを言っていると思った人。その当たり前のことを毎日やっていますか?

頭で分かっていることと実際に行動していることには大きな差があります。自然に身体が動くまで日常の習慣にしましょう。

1.2.3.のステップは必ず順番を守ってください。習慣化することで自分をニュートラルな状態に置くことが大切です。ここまでが「負けない作法」の下地になります。

自分を知る そのために行動する

ベストな状態とはマインドが整っている、心が整っている状態です。ここで重要なのはニュートラルな状態が自分にとってどんな状態なのかということ。自分について深掘っていきましょう。

帝京大学ラグビー部はチーム作りよりも先に「自分つくり」を指導します。お互いをよく知らないうちは身構えてしってチームにならないからです。自分つくりは自分を知ることです。自分を知ることです。自分を知らなければ、仲間であっても相手を知ることは出来ません。

自分の強み、弱みを知るにはまずやってみることが必要になります。

ラグビー部を例にとると、一年生の希望は夢に近い。なぜならまだ何一つしていないから。練習を重ねるうちに見えてくるものがある。自分の強みと弱みを知るための目安はトレーニングや経験を重ねないとわかりません。そしてなかなか難しいのがメンタルの強みと弱み。意識するのは心のコンディションです。日常生活と自分のコンディションを整理して把握すると、朝何をしていると元気で、昼何をしていると気分が悪くなり、夜どのような状態になるとリラックスできるのか生活とメンタルの関係が分かるようになります。好き嫌いではなく、「何が」そういう気分にさせるのか、「なぜ」そういう気分になるのかに意識を向けてマインドのコンディションを掴むことが大切です。強み・弱みを探そうと躍起になるのではなく、「真ん中に立つ」ことを意識してみると自然に見えてくるはずです。

こうした「自分つくり」が出来てきたと実感してくると周囲の環境や他人に目が届き、気を配れるようになってきます。そういう余裕をもてるようになることです。

大前提として、体のコンディションを崩さないようにしましょう。自分の心身を整えることを絶対に忘れてはいけません。

二軸の真ん中に立つとは

思考には二軸があります。両極に2つの軸を意識すること、その真ん中に立つ意識が重要です。それがニュートラルな状態です。

勝ち負けは必ず相手があるから決まるものです。相手よりもなんでもいい、ちょっとでも上手く出来ればそれは勝ちになる。勝ち負けは相関関係で決まるのです。負けの要因は自分が作っている、勝ちの要因は相手がくれることが往々にしてあります。つまり、勝ち負けで大切なことは勝ち負けという評価に左右されないこと。相手や環境に左右されず自分の力を出すことに集中できるかです。そして、負けた状態のままで絶対に終わりにしないこと。もちろん、終わるも終わらないも決めるのは自分です。

環境を整え、心身のコンディションを整え、マインドのコンディションを整えると、負けたときの「なぜ」、「何が」が冷静に考えられます。

負けない状態というのは過去形にせずに未完了のまま次のチャンスへと向かうことです。勝ったときも同様です。「なぜ勝てたのか」「何が勝たせてくれたのか」を考えます。

自分自身に集中すれば勝ちにも負けにも心は揺れません。二軸を意識して勝っても負けても「なぜ」「何が」と突き詰めて考えることが自分つくりを深めます。

事例で考えてみます。真ん中に立つために重要なのは悲観的に準備し楽観的に行動することです。

災害対策を講じる時、「大丈夫だ」と言ってるだけでは対策になりません。あらゆるシチュエーションを想定し対策を立てます。リスクマネジメントとは悲観的に準備することです。しかし、対策本部の会議は深刻というより明るいほうがいい。自分自身はもちろんチームに余裕がなければ人のために頭を働かせることも動くことも出来ません。そして、対策を実践するときは困難が伴うでしょうが準備してきたことを信じて楽観的に行動する。そうすることでうまれた余裕が想定外の出来事に対して正しい対応を生むのです。二軸を意識するとはこういうこと。

そして、その瞬間を楽しむこと。勝った負けたで終わりにしないことが大切と言いました。過去や未来に囚われている、不安や恐怖が心に巣くっている状態はそこで動きが止まっている。その瞬間の捉え方を変えることで気持ちも随分変わります

感情に振り回されるのはよくないと書きましたが感情そのものは悪いものではあります。悪い状態の時はとかく広い意味での技術に目が行きがちですが技術と感情の二軸思考に目を向けることも負けない極意の一つです。

余裕を周りのために使う

自分自身に着目し、どうしたら負けないかを説明してきましたが、「自分だけ良ければいい」とはいきません。社会はたった一人の勝者を求めているわけではないからです。「仲間つくり」が必要になります。

自分に余裕がなくなり周りが見えなくなってしまう、それではまだまだです。自分だけを考えている時点で「負けない」状態とは程遠いと自覚しなければなりません。

「他人のため」の行動には、本当は想像以上に大きな力が必要です。自分のための行動が、結果的に他人や仲間のためになっているのです。人は自分のためであれば際限なく動くことができます。他人の前にまずは自分のためをしっかり行うこと。しかし、自分つくりで終わっては道半ば。力を合わせて目的を達成する、ひいては結束力のある力強い組織やあらゆることに対応できる柔軟な組織を求めています。組織のなかでは経験を積んでくるとリーダーの役割を求められてきます。

リーダーの役割、それはチーム全体をまとめ上げ目的を達成することです。仲間に優劣をつけ排除するのではありません。そのためには余裕をつくること。二軸思考で言えば、メンバー一人ひとりが自分自身とチームを両軸に捉え、そのバランスをとることができるように一人ひとりを丁寧に見守る姿勢が必要です。それも、言葉ではなく姿をみせて伝える。

帝京大学ラグビー部であれば、上級生はリーダーです。1年生はこれまで生活とは全く違う環境になるわけなので上から「やれ」と言われてもなかなか取り組めないのは当然です。上級生は規則正しい生活に加えて炊事、掃除といった雑用までこなす。自分がかつてしてもらったように下級生や周囲に気を配って行動しています。キャパシティーの小さい人がリラックスできるような環境を整えるのです。

「自分つくり」でできた余裕を他人のために組織のためにまず使う。リーダーになったらそういう姿勢を見せ続けることです。

「自分つくり」の先にあるのが「仲間つくり」です。社会では一人でできることには限界がある。「自分つくり」を進めていくと最終的にはいい仲間をどうやってつくるかというところに行きつきます。

仲間つくりでも二軸を意識します。

負けないためには緊張感のある関係を築くことが必須ですが同時にその緊張を緩めることのできる楽しさを提供できるメンバーがいることも大切です。そして、表で活躍する人、陰でチームを支える人、全ての人の心をつなぎ合わせられる温かい関係も非常に重要です。

長い人生で負けいないために

人生で長い時間負けないためにはどうしたらいいでしょうか。

社会で生きていく力とは自分で考える力にほかなりません。

社会情勢は刻々と変わっていきますから当然働く人たちもその影響からは逃れられません。しかも、そのスピードが非常に早い。今日習ったことが明日もう通用しなくなっているかもしれないのです。だからこそ自分で考えなければならない。自分で考える第一歩が振り返りを行うことです。失敗しても成功しても原因が分かり次にすべき行動が見えてきます。

そして、行動すること。やってみなければ自ら導いた答えが正解か不正解か分かりません。

自分で考えた結果、原因が分かる。チャレンジして見事上手くできた。それが楽しい。考える→分かる→できる→楽しい。このサイクルを作法として身につけて欲しいです。

勝ち負けは単なる結果であり、評価にとらわれすぎるなと書きました。

負けも未来に対しては大切な準備の一つです。

負けにもいい魅力がたくさんあることを知っていたら負けることが怖くなくなるでしょう。勝ってもいい負けてもいい、という心境はこのことを真に理解できて初めて到達できる感覚と言えます。このことこそが人生で「負けない」考え方をもっているということでもあります。

それでも、どうしても上手くいかないときがあります。そんなときは「やめればいい」と考えてください。心の逃げ道ができます。自分の心に余裕ができるのを待ってください。自分を追い詰めすぎずに心の中の逃げ場にちょっと身をおいてみる。すると、違う風景が見えてくることがあります。自分があれほど深刻に考えていたことが大したことではなかったと思えることも。このことも忘れないで欲しいのです。

帝京大学ラグビー部では4つのことを守るように指導しています。このことを守りさえすればあとは「所詮ラグビーだから」と捉えるようにと言っています。

・生命を守る

・大きなケガをしない

・法律を守る

・仲間を裏切らない

大切な身体をきちんと使う。心身が壊れないことが重要。当たり前のこと大切にして生きる。心から感謝できる仲間をもつ、そして、裏切らない。

これは広く一般に当てはまる普遍的なものだと思います。

人生で「負けない」ためにすべきことは思うよりもずっとシンプルです。

「負けない作法」今すぐできること

岩出のノウハウ「負けない作法」を学んできました。

私としてはすごく腑に落ちることばかりでした。

そんなこと出来れば苦労はしない、というところもあったかもしれませんがそもそも"負けない”ことってそんなに簡単なことではないはず。積み重ねが必要です。

そして、今すぐできること具体的なこともがあります。

身体の記録をつける、振り返りを行う。これらを習慣化することです。

意識、考え方を変える、実践するそうすれば負けない。

そんな、道しるべになります。

この記事では私が感じたこと抜粋していますので逃しているポイントもたくさんあります。

帝京大学森准教授との対談パートも泣く泣くカットしていますが興味深い話です。

気になる方は「負けない作法」買ってみてください。

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